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CD「フーガの技法」ライナーノーツ より

未完のフーガ(コントラプンクトゥス14番)について、番組の中でグールドはBモンサンジョンに語りかける。「あの未完のフーガは確かに情にも訴える。何しろバッハの絶筆だし[・・・・・]しかし本当の魅力は平穏さと敬虔さ。本人も圧倒されてたはず。このフーガに限らず曲集全体に言えるのは、バッハが当時の音楽の流行に背を向けていたことだ。彼の晩年、フーガははやらなくなっていた。[・・・・・]フーガでなくメヌエットの時代なのにバッハはきわめて意識的に自分の和声のスタイルを変え[・・・・・]別の地平に達していた。バッハは100年以上さかのぼり、対位法や調性の処理法を借用した。バロック初期の北ドイツやフランドルの作曲家のもので、調性を使いながら鮮やかな色彩を避け、代わりに薄い灰色が無限に続く。私は灰色が好きだ。シュヴァイツァーがいいことを言っている。"静寂で厳粛な世界、荒涼とした色も光も動きもない世界"と」

未完のフーガの最後の音を弾いた瞬間、グールドは感電したように左手をさっと持ち上げる。映像は静止し、
腕は宙で凍りつく。[・・・・・]この姿を見た者は、この瞬間の映像を決して忘れることができない。

-------------------------------------------------ミヒャエル・シュテーゲマン(宮澤淳一・訳)


そして本日、私、僭越ながら、
私も時代の流行には背を向けてバッハだけを
弾いていこうという思いを強くし、この未完の
フーガ14番に取り組む気になることさえ100年
かかってもありえないだろうから4番をチビチビと
始める、と決めた。
by smithsmori | 2008-01-12 16:32 | 過去ログ(Gould)
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